宇治川 (神田川の京バージョン) [妄想劇]
「ま、そんなとこやろ。森鵰、阿銀さんと一緒に住めよ。」
このたくのなにげなく言った一言が始まりだった。
「ワシと一緒に住まへんか?」
たくの一言でその気になったモリーに誘われ、いそいそと京をめざす銀子。臭いドボン便所にはかなり引いたが、それも愛があれば乗り越えられる。
モリー宅には風呂がないため、毎晩肩を寄せ合い、銭湯へ通う二人。
そんな二人を電柱の影から嫉妬深い目で見つめる男、たく…。
「なんでやねん、オレというものがありながら…、いちゃつきやがって」
「いや、オレがモリーに同棲をすすめたんだっけ。アホな事言うてしもうたな」
後悔しきりのたくであった。
そんなある日、モリー宅のポストに一通の切手の貼っていない手紙が投函されていた。裏を見ると差出人の名前もない。不思議に思い封を開けてみると…。
ー あんはんはもう忘れたやろか?赤いレッドタクのマフラー、手ぬぐいにして…
「こ、これはたくの字や!あいつ、こんな詩を書いてからに…」
まだ、たくの家にも風呂がなかった頃、二人してよく銭湯に通ったことを思い出したモリー。
「そうやった。たしかオレが手ぬぐいを忘れた時、あいつ商売道具のレッドタク@赤いマフラーを出して、これを使えやって貸してくれたんだっけ…」
たくの恩情を思い出し、涙ぐむモリー。
「最近彼女とばかりくっついて、あいつとは疎遠やったもんな~。すまん、たく」
次の日、銭湯へ向かう三人の姿があった。モリー、たく、銀子の三人である。モリーが、
「たまには昔を思い出して一緒に風呂に入ろうや」
とたくを誘ったのである。
今日は恋人同士が盛り上がるクリスマス・イブ。
一足早く銭湯を出た銀子は、今晩のモリーとの熱い夜を想像しながら二人が出てくるのを待っていた。
「おっそいわね~」
雪がちらついてきた空を見上げながら、銀子は冷え切った身体を震わせ、いつまで経っても出てこない二人にイラついていた。
その頃二人は、泡をめいっぱい立てて、あの赤いマフラーを使って身体を隅々まで洗いっこをしていたのであった。
「モリー、いつもクリスマスイブは俺たち二人きりで過ごしてたな~」
「そやね」
「今晩は、あの銀子と…か?」
「ま、まあな」
「あかん!あんな女にお前を渡さへんで!お前はオレのもんや!」
たくは泡だらけの裸体でモリーに抱きつくと、人目もはばからず号泣した。
「たく、そ、そんなにオレのことを…。わかった、今晩はお前と過ごす。銀子には悪いんやけどな」
二人は服を着ると、銭湯の裏口からこっそり出て、東大阪のラブホ街へ向かったのである…。
完
このストーリーは昨日のチャットで盛り上がっていた内容に、多少脚色を加えたものです(爆)題名の「宇治川」命名は、どぅい姐でございます☆